Masaki Kawada Web

一冊の栞 no.17

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私の父は、豊かなふところから生みだしうる風変わりな、すぐれた画家の一人でした。師についてのでも、どこかの流派に属していたのでもなく、自分で自分の魂のなかに法則や掟を捜しもとめ、ただひたむきに完成をめざし、魂のさし示す道をただひと筋に歩という、自分ひとりで覚えた画家でした。なにを見るにつけ、その鋭い直感力で、父は、対象のなかに隠れている意味を嗅ぎわけなぜ歴史的題材をとりあつかった大作が、歴史美術画家の手になるものと見せかけようとしながら、タブロ・ド・ジャンル(風俗画)に終わっているのかをよくわかってもいました。人といっしょに他人の批評をするにしても、鷹揚ながらも鋭い批評をするという性質の人間で他人のことをなんで気にすることがあると、いつも父は言うのでした、だっておれは他人のために仕事をしているんじゃないんだからな。

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こんな絵がいったい、だれに必要があるというのだろうか こんなにごてごて油絵具を塗りたくった汚らしい絵 それでもいくらか芸術らしく見せかけてはいるものの、それとても芸術にたいする大きな侮辱をさらけだしているだけなのに、いったい、だれにとって必要だというのか?まるっきり子供っぽいひとりよがりの作品だ。ここに見えているのは、愚鈍で、無気力で、ぼけたような無能力の跡だけで、こんなものは低級な職人仕事といったほうがふさわしい

2004年 / h.14.9 × w.10.7 × d.1.3 cm / 本 鉛筆 / 作家蔵