Masaki Kawada Web

ながら族

僕の友人で、何をするにもラジオをつけている人がいる。いわゆる「ながら族」である。
ある目的のことをしながらもそれとは関係のないことをする、そんな人たちのことを「ながら族」というのだけれども、僕はそんな友人の行動を不思議に思う。

ラジオなんて聞きながら他のことができるのだろうか?

試しに僕もラジオをつけて仕事をしてみたのだが、それがどうもうまくいかない。ラジオから聞こえてくる音楽やDJの声、ゲストとの楽しげな会話が気になって集中できない。ついついラジオに引き込まれてしまう。そして、それを聞きながら微笑んでいる僕がいる。
先日、仕事の打ち合わせでその友人に会うことになったのでいい機会と思い、そのことを尋ねてみた。
すると、友人は不思議そうに僕の顔を見て、

「そんなこと考えたことないわよ。いつものことだし。何かおかしい?」

と、そんな返答が返ってきたのだ。どうやら友人にとっては僕の方がおかしいらしい。
僕はなんとも腑に落ちないまま帰宅し、締め切り間近の原稿を仕上げていると、ふと、友人のこんな言葉を思い出した。

「あなたもやっていると思うけど。」

僕が何をやっているというのだ。僕は「ながら族」ではない。けれども、よく考えてみると、今、こうやって原稿を書きながらも、どこかぼおうして他のことを考えている。

「ということは!」

そう、僕は気付いていなかっただけで、既に「ながら族」の一員になっていたのだ。そして、僕はそういうことからいつも思わぬ発見をしながら原稿を書いていることにも気付かされた。

『アートする美術』(かわだ新書001) / 2002年 / pp.64-65