Masaki Kawada Web

やり直し

どうやら、僕には文才がないらしい。
こうやって書き下ろしをしているとつくづく思う。筆が進まない。辛うじて書くことができた文章は、美術作家特有の、難解で、理屈っぽい、ジメジメと湿気を帯びた陰気な雰囲気だ。

僕もアーティストの端くれだから、どうにかしてこの状況を抜け出したい。でも、いっこうによくなる気配がない。文才と同様に、作品をつくる才能さえないと思ってしまう。
そうなったらもうおしまい。行き着くところまで暗いトンネルを歩いていくしかない。
気分はどこまでも下降線をたどる。
それでも、行き着く先には明るい出口があるだろうと希望を持って歩き続ける。けれども、そんなものはじめから無かったかのように、いっこうに出口が見えない。不安感が僕を襲う。

「あぁ、もういやだ。こんなところは!」
「誰かいないのかぁ。」
「・・・・・・・・」

何の返事も返ってこない。空しく僕の声がこだまする。

「ここから早く抜け出したい。」
「そうだ、入り口に戻ろう。」

歩いてきた道を振り返ってみる。けれども、入ってきたはずの入り口が見当たらない。

「どうしたことだ。さっきまであったじゃないか。」

どうやら僕は道に迷ったらしい。
どこで間違ったのか、記憶を頼りに来た道をたどってみる。

「勘違いということもある。」
「よく周りを見渡してみよう。」
「考えるんだ。」

けれども、そうしたところでいっこうに手がかりが見つからない。
これではもうお手上げだ。

手がかりなし。
頼りなし。
出口なし。
あとはやり直すしかない。いつものことだ。

安堵と落胆で複雑な気分になっていると、そこに突然、見知らぬ男が現れて、僕にこう呟いた。

「いやいや、ちょっと待てよ。あるじゃないか。ほら。向こうの方に小さく見えるだろ。」

僕は不審に思いながらも、男が指し示したその先を見て驚いた。
確かに何かあるではないか。
僕は出口かと思い、一心不乱にそこへ走った。
しかし、やっとの思いで辿り着いたその場所は、美術作家特有の、自閉的で、自己陶酔に満ちたナルシスの鏡が美しい光を反射して輝き、僕を魅惑の泉へと招き寄せているだけだった。

『アートする美術』(かわだ新書001) / 2002年 / pp.53-56