30歳前後の美術家28名へのアンケート
- 氏名
黒嶋亮子 - 生まれた年(西暦)
1975年 - どのような制作活動をしていますか(素材、テーマ、形態など)
素材や形態は常に決まっていません。変わらないことは自分の中に芽生える小さな感情になるべく忠実になることです。 - 生活の収入のあために、現在を含めて今までどうのような仕事をしてきましたか(その内容など)
生活の収入といえる程、働いたことはありませんがなるべく定期的に働くようにしています。仕事内容はその時できることをやりますが、ここ数年は美術関係の仕事をやっています。 - 今日の日本では、制作活動のみで生活してゆくことは非常に困難ですが、そうしたことについてどう考えていますか。
確かに困難なことですが、そういった状況に対して批判をしても何も始まりません。だからといって、そういった状況を見過ごそうとは思いませんが困難なことと分かりながらも一歩踏み出そうとするところに始まりがあるのではないでしょうか。 - 作家は、作品(創作活動)のみで生計を立てるべきだと思いますか。そう思われる方は、そのために自分は具体的に何をすべきだと考えていますか。また、そう思わない方は、その理由を答えてください。
作品のみで生計を立てるべきとも、その逆であるとも思いません。実際、日々ものを作っているとどこからどこまでが制作でどこからどこまでがそうではないという線引きができないのです。周りから見たら全てが制作のように見えても本人にとってはそうではない、またその逆もありうる、というとても曖昧な状況を日々感じています。また、そういった状況がどこまで作品につながっていて、どこまでを作品のみで生計を立てていると区切れば良いのか非常に曖昧です。良い作品=流通しているとは限らないし作品を売ることのみ、生活のためだけにと考えるのは根本的に違うと思います。生計を立てるためという理想をはじめに掲げてしまうのなら美術である必要はないと思います。 - 生活のために仕事と制作活動との両立についてどう考えていますか。
6の質問と同様、生活のための仕事と制作活動とをきっぱり分けてしまうことは私にとって困難です。仮に分けて考えたとしても、実際に仕事があることで制作活動に集中できることもあるので今のところ仕事と制作活動が両極端にふれてしまう状況に陥っていないため分けて考えることができません。 - 結婚し家庭を持ちながらなおかつ制作活動を続けるということについて、自分自身の現実と照らし合わせてどう思いますか。
現在、私は結婚していませんしその必要にせまられていないので語ったところでそれは理想でしかありません。理想と現実には大きな隔たりがあると思います。 - 助成金を受けるなどして、海外で活動してゆく方法についてどう思いますか。
機会に恵まれれば一つの手段として利用できると思います。ただ、海外に行くということよりも一つの場を与えられ、一つの違った環境の中で何ができるかが大切だと思います。 - 作品を「売る」ということについて自由に書いてください。
私はまだ作品が売れたことがないのであまりリアリティーがもてない質問なのですが、「売る」という行為に対して批判するつもりはありません。実際に作品が売れたら嬉しいだろうし、売れたら売れただけ(画廊側に何パーセントか渡すとしても)作家側の収入になるのですから。問題はその後、作品がどういった在り方をしているのか、人の手に渡った後、本来の姿で在り続けられるのかと考えると漠然と「売る」という行為に対してある種の抵抗を感じます。 - 貸画廊のシステムについてどう思いますか。
貸画廊のシステムについて意見をするつもりはありません。作品を展示する、作品がさらされることは結果だけとってしまえば貸画廊であっても企画画廊であっても同じことです。自分でお金を払って画廊を借りた分、自由がきくという利点、企画画廊でお金を払わなくても良いという利点それぞれありますが、どちらともそのシステムで作家側が作品や展覧会をどう考え立ち上げていけるかが重要なのだと思います。 - 生自由に使えるお金が200万円あったら何をしますか。
手にしたことがないので具体的に想像がつきませんが、今の生活が経済的な面で豊かになるとは思います。 - お金の節約のために何か特別なことをしていますか。その内容を書いてください。
小さな節約はしますが、常に節約してしまうと自分自身が豊かじゃなくなるような気がするのでお金がないと思ったら少しでも働くようにしています。 - その他、美術にまつわるお金の話を自由に書いてください。
作家だけではなく、どんな職業でもどんな立場の人でも生きていること自体、金銭と関わり生活しています。美術家という立場だけをとって、作品と金銭の関係、作家と金銭の関係を重要視すること、また逆にそういった金銭の問題から逃げていくことはたやすいことです。一人の人間として作家として金銭と関わること自ら関わっていくことは重要ですが、そればかりに執着しすぎて逆に金銭に振り回されるのはまっぴらだとも思います。
「30歳前後の美術家28名へのアンケート」/「Infans 第7号 特集 皮膜」(増補版)/ 2002年