アトリエ

天井を見上げてみる。

ぼんやりとシミのようなものが見える。人の顔のようにも、動物の体のようにも見える。別の場所には山のようなかたちが見えてきた。びっくりした。時々驚く。何かに見られているような気分になる。目の錯覚かな。最近、疲れてたからね。

コーヒーでも飲むか。湯気の向こうに見える風景は現実なのか。今、見ている風景は本物なのだろうか。そんなことを考えてみる。明日になったら忘れちゃうのにね。写真を撮ってみる。とりあえず、目の前の風景を写してみよう。こうやって現実のコピーを手に取っては確かめる。写ってるの、写ってないの?どっちにしろ、撮られた写真はそこに存在していた風景の複写でしかない。所詮、コピーでしかない。でも考えてみると雑誌やテレビもコピーだ。それって結構、魅力的!コピーだからって侮れない。確実に私たちの生活の中にコピーは存在しているのだから。しかも身近な所に。

写す、映す、移す。「うつす」ことで私はそのものの存在を確かめ、また同時に消滅を知る。カメラで風景を写し、その画像をトレーシングペーパーに映し、カーボン紙で別の場所に移す。「うつす」工程を何度か踏むことで確実なかたちを追い求めつつも、同時に実物からは遠ざかり遥か彼方な存在へと導く。作品なんてあってないようなもの。イヤ、ないようであるようなもの。今、目の前にあるものが作品であるという保証はどこにもないし、今見えている現実は一秒後には現実ではなくなる。何も変わらないなんてことありえない。世界は刻々と変わっていく。もしかしたら今見ている現実は架空の世界で、夢の中が現実だったりして。もっとも境目なんてないかもね。実はもっと新しい別の世界があるのかもしれない。新しい世界を見たいがために日々の営みがあるのかもしれない。

「カシャ!」カメラのシャッターが落ちる音が私を現実に引き戻す。コーヒーは冷めてしまったようだ。どれくらいの時間が経ったのだろう。今日は何曜日だっけ。無駄な時間だったかな。まあ、いつものことだけどね。 天井を見上げてみる。

「アトリエ」/ 「アクリラアート別冊2004」ホルベイン工業株式会社 / 2004年

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